ビギナーの頃は山に登りさえすれば楽しいと思っていた人も、経験を積んでくるとそれだけでは物足りなくなってきます。山登りが「目的」ではなく、「手段」になってくるのです。ベテランなら長い山登り経験の中でなんらかの目的を見つけるものですが、それまでがむしゃらに登ってきた中級者にしてみると目的は簡単には見つかりません。すると山登りに対する熱はだんだん冷めてきて、ついには山から遠ざかってしまう可能性もあります。
そこで、山での楽しみ方いろいろを紹介してみました。今回は草や木の花を追うという楽しみ方をガイドします。
花は人を引きつけます
日本には春・夏・秋・冬という四季があります。そして、自然はそれぞれの四季に応じた景色を見せてくれます。山も例外ではありません。季節によってそれなりの表情を見せてくれます。その四季を象徴的に表してくれるのが花です。自然が豊富な山には草木も多く、その草木が春、夏、秋に花を咲かせます。平地では見られない花も多く、また人の手が入っていないため大群落を形成する場合もあり、見るに値する花はたくさんあります。もちろん、地味で目立たないながらじっくり見れば味わい深い花もあります。
美しい花であっても、そうでない花であっても人を引きつけます。花にはそれだけの力があり、たった一つの花を見るためだけに山に登る人も少なくないのです。
花の楽しみ方その1
花の楽しみ方の入門は、まずなんの先入観も持たずに山に登ってみることです。そして、どのようなところにどんな花が咲いているかを見てください。真冬に花を望むのは難しいので、それ以外のシーズンにしましょう。真夏も少ないのですが、まったく見られないわけではありません。アザミやユリの仲間、それにノハナショウブ、ホタルブクロ、オカトラノオ、ミズヒキ、カンゾウの類など結構種類は多いはずです。ただ、山域によって花が多いところ、少ないところがあります。そのことに気づいてください。
同様に、山里に近いと花が多く、高度を上げるにつれて少なくなることにも気づくはずです。特に、草本(そうほん)類は少なくなります。ちなみに、草本とは草という意味です。それに対して、樹木は木本(もくほん)と呼びます。花といっても、木本と草本では性質が異なります。
さて、山ではさまざまな花を発見できたことと思います。
しかし、その花の名前をあなたはいくつ知っていたでしょう? 半数以上は知らなかったのではないでしょうか?
花に興味を持ったあなたは、次の段階としてその花=植物の名前を知りたくなるに違いありません。それを知りたくて植物の名前を調べる。それが次のステップです。ただ、人の記憶は当てにはなりません。花弁はどんな形で何枚か、葉の形、茎にはどのような付き方をしているかなどなど、植物の名前を調べるのは予想外に面倒です。季節と花の色だけでは断定できません。それを調べるために小型の図鑑を持参して、その場で調べる人もいます。スマホやタブレットで調べる人もいます。最近は花の写真を撮り、ネットにアップすると教えてくれる人がたくさん現れています(アプリもあるようです)。そんな人と情報のやり取りをするのも楽しみになるでしょう。同じ趣味を持つ人同士はすぐ仲よくなるものです。
オオキツネノカミソリ
花の楽しみ方その2
山仲間の中に花に詳しい人がいれば、あなたの花に対する知識は一挙に増加します。山に同行して次々に聞いてください。当然、教えてもらった花の名前はメモしておきます。でないとすぐに忘れてしまいます。このとき花の写真を撮っておき、メモと一致させておくのが花の名前を覚える早道です。
肝心なのはこのあとです。花の名前を明記した写真がどんどん溜まったところでなにをするか、です。そのままでは単なる写真をストックしたにすぎません。分類し、その植物の科・属に特有の性質を調べるというのも一つの方向です。名前が判明すればそれで終わりというのではなく、詳しく調べて植生や開花時期、花の構造、繁殖方法などの細かい性質が分かれば記憶にとどめやすくなります。詳しく知ればその花に親近感が湧き、忘れることはなくなるでしょう。今度はあなたがほかの人に教えて上げる段階です。花の写真とともにあなたが知り得た内容をネットにアップすればファンもできるでしょう。
サツマイナモリ
花の楽しみ方その3
これまでは山で出会った花とどのように付き合うかという話を進めてきました。今度は、会いたい花を求めて山に登るという楽しみ方を紹介しましょう。行楽としてサクラやウメの花を観に行くのは珍しいことではありません。それをもっと押し進めて、山でしか見られない花を求めて山登りをするというのが楽しみ方その3です。まさに、フラワーハンターといっていいでしょう。特に、北日本や高山地帯では春の訪れが遅く、その時期になれば一斉に開花します。コマクサ、エゾノツガザクラ、イワベンケイなどは皆さんよくご存じでしょう。開花時期になればたくさんの人が登ってきます。
西日本の低い山でも季節によって素晴らしい花を咲かせるところがたくさんあります。そんな情報を集めて実際に自分の目で確かめると新しい感動を覚えるでしょう。毎年そこを訪ねて同じ花が咲いていると、まるで旧友に出会ったような気分になります。自然破壊は進んでいないと確信を持てる瞬間でもあります。
ジンジソウ
まとめ
自然は生き物です。スケジュール帳のように○月○日になったら花が咲くというわけではありません。その年によって大きく前後することもあるし、たくさん咲く年、少ししか咲かない年もあります。株が年々少なくなる場所もあります。それも含めて「自然の摂理」です。山では人間の力が及ばない世界を身近に感じることができるのです。人間は自然のほんの一部にすぎません。
他にもこんな花の楽しみ方がある!という読者の方がいらっしゃったら、コメントお願いします。
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